2026.09.09
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EU(欧州連合)で、製品事故などに関する製造物責任制度を見直す新しいPL指令「Directive (EU) 2024/2853」が制定されました。
新しいPL指令では、従来の製造物責任の基本的な考え方を維持しながら、ソフトウェアやAI、販売後の製品更新、複雑化したサプライチェーンなど、現在の製品環境に対応するための見直しが行われています。
EU加盟国による国内法化の期限は2026年12月9日で、原則として同日より後に市場投入または使用開始された製品が新指令の対象となります。
日本からEUへ製品を輸出しているメーカーにとって、特に確認しておきたいのが「取扱説明書」や「使用情報」の管理です。
例えば、
といった点は、これまで以上に重要になります。
この記事では、EU新PL指令によって何が変わるのかを整理したうえで、日本のメーカーが取扱説明書やマニュアルについて準備しておきたいポイントを解説します。
EU新PL指令「Directive (EU) 2024/2853」は、従来の製造物責任指令「85/374/EEC」を更新するものです。
製品に欠陥があり、それによって損害が発生した場合の製造者等の責任について定めています。
製造者の「過失」を被害者が立証しなくても製造物責任が成立し得るという基本的な考え方は、従来から変わっていません。
一方で、現在の製品は従来よりも複雑になっています。
機械や家電であっても、
などと組み合わせて利用する製品が増えています。
また、製品を販売した後もソフトウェアアップデートによって機能や安全性が変化することがあります。
新PL指令では、こうしたデジタル化された製品環境に対応するため、ソフトウェアや販売後の変更などについて、責任の考え方がより明確に整理されています。
取扱説明書やマニュアル制作に関係する内容を中心に、新PL指令のポイントを見ていきます。
EU新PL指令では、「製品」の定義にソフトウェアが明記されています。
AIシステムや単体のソフトウェアも対象となり得ます。
また、
といった提供方法だけを理由に対象外になるわけではありません。
ただし、「以前のEUのPL制度ではソフトウェアは対象外だったが、新指令で初めて対象になった」という説明は正確ではありません。
旧制度においてもソフトウェアを対象とする欧州委員会の解釈は存在しており、新指令ではその位置付けがより明確になったと考えるのが適切です。
機器メーカーの場合、製品本体だけではなく、
なども含めて使用情報を確認する必要があります。
例えば、本体の取扱説明書では「A」という操作になっている一方で、アプリのアップデート後には「B」という操作に変わっていれば、利用者が誤った操作をする可能性があります。
製品本体とソフトウェアのマニュアルを別々に管理するのではなく、どの製品型番と、どのソフトウェアバージョンに、どの説明が対応しているのかを確認できる管理が重要です。

EUのPL制度では以前から、製品の表示や合理的に予想される使用方法などが、製品に「欠陥」があるかを判断する要素となっていました。
新PL指令では、
などの説明や、利用者の特性についても欠陥判断の要素として、より具体的に整理されています。
ここで重要なのが「合理的に予見可能な誤使用」という考え方です。
メーカーが意図した正しい操作だけではなく、利用者が現実にどのような操作を間違える可能性があるかも考慮する必要があります。
例えば、
といった状況です。
注意したいのは、「PL対策として警告文を大量に追加すればよい」ということではない点です。
EU新PL指令では、警告などを付けただけで、本来安全性に問題のある製品を安全な製品にできるわけではないという考え方が示されています。
安全対策としては、まず製品設計によって危険を除去・低減し、そのうえで必要な保護措置を講じ、残ったリスクについて適切な説明や警告を行うことが基本です。
マニュアル制作会社が製品設計上の安全性そのものを判断することはできません。
一方で、製品側で残ったリスクについて、利用者に必要な情報が適切に伝えられているかを確認することは重要です。
現在の製品では、出荷後に製品の機能が変わることが珍しくありません。
例えば、
などがあります。
EU新PL指令では、製造者の管理下にあるソフトウェアや関連サービス、安全維持に必要な更新の欠如などについて、販売後に生じた欠陥に関する従来の免責を制限する考え方が整理されています。
ただし、新PL指令そのものが、すべての製品について一律にソフトウェア更新を提供する義務を定めているわけではありません。
重要なのは、実際に製品やソフトウェアを更新した場合、その変更に使用情報が追随しているかという点です。
製品をアップデートしたにもかかわらず、
といった状況が発生することがあります。
こうした不一致を防ぐためには、製品変更時に、製品変更 → 影響する使用情報の確認 → マニュアル改訂 → レビュー・承認 → 公開 → 利用者への案内までを一つの更新プロセスとして管理することが重要になります。
EU新PL指令の大きな変更点の一つが、訴訟における証拠開示と立証に関する仕組みです。
被害者が欠陥・損害・因果関係を立証するという基本原則は維持されています。
一方で、一定の場合に関連する証拠の開示を求める仕組みや、技術的な複雑さなどによって立証が困難な場合に、欠陥や因果関係を推定する仕組みが設けられています。
全面的に「製造者側へ立証責任が移った」という制度ではありませんが、メーカー側も製品や使用情報について、事実関係を確認できる状態にしておくことが重要になります。
マニュアルについて考えると、「現在Webサイトに掲載されている最新版」だけでは十分とは限りません。
事故が発生した時点で、
提供していたのか確認できる必要があります。
Webマニュアルは、紙やPDFに比べて修正しやすいというメリットがあります。
しかし、常に同じページを上書きしていると、「1年前にどの内容を掲載していたのか分からない」という状態になる可能性があります。
そこで重要になるのが「公開版」の管理です。
例えば、
などを紐付けて管理します。
単にWordPressなどの編集履歴を残すだけではなく、「正式に利用者へ提供した版」を保存するという考え方がポイントです。
EU域外のメーカーがEU市場へ製品を提供する場合には、輸入者や認定代理人など、EU域内の関係者との連携も重要になります。
新PL指令では、EU域外メーカーに関係する責任主体についても整理されています。
マニュアル制作の観点では、日本メーカーと欧州側の関係者が、「どれが現在の正式版なのか」を共通して確認できることが重要です。
特に多言語マニュアルでは、
日本語版
↓
英語版
↓
ドイツ語版
↓
フランス語版
というように個別に改訂していると、徐々に内容がずれていく場合があります。
日本語版には警告が追加されたにもかかわらず、欧州向け翻訳版には反映されていない、といった事態は避けなければなりません。
そのため、
という管理工程を整えることが重要です。

新PL指令では、従来の身体・財産への損害に加えて、一定のデータ損害なども対象に含まれるようになっています。
具体的には、業務目的に使用されないデータの破壊・破損や、医学的に認められる心理的健康被害も明示されています。
そのため、デジタル機器やソフトウェアを提供しているメーカーでは、
といった操作についても、説明内容を確認しておきたいところです。
例えば初期化を行うと利用者のデータが消去される製品であれば、操作を実行する前に、何が失われるのかを明確に伝えることが重要です。
必要に応じて、「バックアップを行ってから操作してください」といった回避方法についても、実際の製品仕様に合わせて説明します。
EU新PL指令では、一定の人身損害について権利消滅期間の例外も設けられています。
従来の原則10年に対して、症状が現れるまでの潜伏期間によって10年以内に請求できなかった場合には、25年となる例外があります。
ただし、
「EU新PL指令ではマニュアルを25年間保存しなければならない」
「すべての製品のPL責任が25年になった」
という意味ではありません。
製品の特性や適用法令などを考慮しながら、必要な記録の保存期間について個別に検討する必要があります。
日本にも製造物責任法(PL法)があり、取扱説明書や警告内容は日本メーカーにとって従来から重要です。
日本でも、「指示・警告上の欠陥」が責任の根拠となる可能性があります。
そのため、「日本では警告に関する責任はないが、EU新PL指令では新しく責任が発生する」という理解は適切ではありません。
一方で、ソフトウェアについては違いがあります。
日本のPL法では、無体物であるソフトウェアそのものは原則としてPL法上の「製造物」に含まれません。
ただし、組み込まれたソフトウェアの不具合によって機器そのものに欠陥が生じた場合などには、機器メーカーが責任を負う可能性があります。
EU新PL指令では単体ソフトウェアも製品として明確に扱われる点が、大きな違いの一つです。
2026年には、日本国内でも取扱説明書に関係する規格として「JIS Z 82079-1:2026」が制定されています。
JIS Z 82079-1:2026の概要や、従来のJIS C 0457:2006からどのような点が変わったのかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
「JIS Z 82079-1:2026とは?JIS C 0457からの変更点をマニュアル制作会社が解説」
JIS Z 82079-1:2026は、EU新PL指令のような法律ではありません。
製品の「使用情報」をどのように分析・設計・制作・維持するかについての規格です。
例えば、対応する国際規格IEC/IEEE 82079-1:2019では、
といった考え方が示されています。
そのためEU向け製品についてマニュアルを見直す際にも、使用情報の制作・管理方法を考えるための参考になります。
ただし、JIS Z 82079-1に適合すればEU新PL指令への対応が完了するわけではありません。
規格への適合と、個別案件における製造物責任の成立は別の問題です。
EUへ製品を輸出している企業では、まず次の5つを確認してみるとよいでしょう。
製品型番だけではなく、関連するアプリ、ファームウェア、クラウドサービスなども含めて確認します。
あわせて販売国、市場投入時期、EU側の輸入者や認定代理人などとの役割分担についても整理します。
設置、使用、保守、更新などについて、必要な説明や警告が不足していないか確認します。
利用者が現実に行う可能性のある誤操作についても検討します。
製品やソフトウェアを更新した場合、関連する取扱説明書、Web、FAQ、動画、翻訳版などへの影響を確認します。
「いつ、どの製品に、どの版の説明を提供したか」を確認できるようにします。
公開版、改訂理由、レビュー・承認記録などについても管理方法を決めておきます。
問い合わせや事故・不具合情報を収集し、必要に応じて使用情報へ反映する仕組みを整えます。
技術、品質、法務、カスタマーサポート、欧州側の関係者などが連携できる体制も重要です。
こうした管理というと、大規模な文書管理システムが必要だと思われるかもしれません。
しかし、必ずしも最初から大きなシステムを導入する必要はありません。
製品数や言語数が少ない場合には、
などから開始することもできます。
重要なのは、
「正式版がどれなのか分からない」
「過去のデータを上書きしてしまっている」
「翻訳版が最新版か誰も分からない」
という状態をなくすことです。
製品数、改訂回数、言語数が増えてきた段階で、専用の文書管理やWebマニュアルシステムを検討する方法もあります。
EU新PL指令への対応を検討する際、Webマニュアルは非常に有効な手段の一つです。
製品変更に合わせて迅速に更新できるほか、検索性を高めたり、FAQや動画などと連携したりすることができます。
しかし、「紙の取扱説明書をWeb化すればEU新PL指令に対応できる」というわけではありません。
重要なのは、
などを含めて、使用情報を継続的に管理できる状態にすることです。
Web化は、そのための手段の一つと考えるべきでしょう。
テックスフィアでは、製造業を中心に、取扱説明書や各種技術資料の制作・改訂、多言語展開、Webマニュアル化を支援しています。
EU新PL指令への対応を検討する企業に対しても、法的な適合判断そのものではなく、マニュアル・使用情報の観点から、
などを支援できます。
製品の法令適合、安全設計、法的責任の判断については、メーカーの技術・品質・法務部門や外部専門家との連携が必要です。
テックスフィアでは、その中で「利用者へ提供する情報を、正確に制作し、更新・管理できる状態を作ること」を支援します。
EU新PL指令を考えるうえで重要なのは、単に警告文を追加することではありません。
製品本体、ソフトウェア、Web、PDF、動画、多言語版など、利用者に提供する情報全体を整理し、製品の変化に合わせて使用情報も継続して更新するという運用を作ることが重要です。
特にEU向け製品では、「現在のマニュアルが正しいか」だけでなく、「その製品を販売した時点で、利用者にどの説明を提供していたのか」まで確認できる管理が求められる場面が考えられます。
これまで取扱説明書を「製品発売時に作成する成果物」として管理してきた企業にとって、EU新PL指令は、マニュアル制作・改訂・版管理の仕組みそのものを見直すきっかけになるでしょう。
テックスフィアでは、既存の取扱説明書やマニュアルの確認から、改訂、多言語化、Web化、継続的な運用方法までご相談いただけます。
EU向け製品のマニュアル管理や、既存の使用情報の見直しを検討されている場合は、お気軽にお問い合わせください。
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